高知地方裁判所 昭和57年(ワ)319号 判決 1984年6月20日
原告
宮地勝芳
ほか一名
被告
沖野吉克
主文
一 被告は原告宮地勝芳に対し、金三八四万〇、九六五円及び内金三四四万〇、九六五円に対する昭和五六年七月一二日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告宮中鶴子に対し、金二〇四万〇、八〇九円及び内金一八四万〇、八〇九円に対する昭和五六年七月一二日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。
三 原告両名のその余の各請求を棄却する。
四 訴訟費用は二分し、その一を被告、その余を原告両名の各負担とする。
五 この判決は、それぞれ被告に対し、原告宮地勝芳が金一〇〇万円、原告宮中鶴子が金五〇万円の担保を供するときは、各原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者が求めた裁判
一 原告両名
1 被告は原告宮地勝芳に対し、金七二七万九、五〇四円及び内金六五二万九、五〇四円に対する昭和五六年七月一二日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告宮中鶴子に対し、金三五八万〇、〇九三円及び内金三一七万〇、〇九三円に対する昭和五六年七月一二日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言。
二 被告
原告両名の各請求を棄却する。
訴訟費用は、原告両名の各負担とする。
との判決。
第二当事者の主張
一 原告両名の請求原因
1 交通事故の発生
(一) 日時 昭和五六年七月一一日午後三時ごろ、
(二) 場所 高知県土佐清水市大岐字浜垣三、一四八番地先付近の道路上、
(三) 態様 (1) 原告宮地勝芳(以下「原告宮地」という。)が、同宮中鶴子(以下「原告宮中」という。)を同乗させて、普通乗用自動車(高五五ゆ一三八一)(以下「原告車」という。)を運転して、高知県中村市方面から足摺岬方面に向つて南進中、進路前方左側にレストランを認めて、原告車を道路の左側部分に寄せて同レストラン前付近の道路上に停止させようとしたところ、後方から同一方向に向つて進行して来た被告の運転する普通乗用自動車(高五五た三一五四)(以下「被告車」という。)が高速度のまま強く追突したため、原告両名は、いずれも外傷性頭頸部症候群及び腰痛等の傷害を負つた(以下これを「本件事故」という。)
2 被告の責任
被告は、本件事故当時被告車を所有して自己のため運行の用に供していた。
また被告は、前方を注視せずに被告車を運転した過失によつて右事故を発生させたものである。
よつて被告は、第一次的には自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文により、第二次的には民法七〇九条により、原告両名が右事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。
3 原告宮地が被つた損害
(一) 治療経過
昭和五六年七月一三日から同月二一日までの九日間三愛病院に入院
同年七月二三日から同五七年五月三一日までの三一三日間高知整形外科病院に通院(但し、実治療日数は七八日)
以上のとおり治療を受け、同五七年五月三一日症状固定となつた。
(二) 後遺障害
(1) 自覚症状として、両肩に凝りとしびれがあり、頭が重く、頭痛、耳鳴り、二重視があり、他覚症状として、両肩の凝り、しびれ、脱力があり、特に二重視の症状により、長時間の自動車運転が危険となり、この種の職種への就労は不可能となつた。
(2) 自覚症状は原告宮中より重篤であるから、少くとも同原告と同程度の自賠法施行令の後遺障害等級の一二級一二号に該当する。
(三) 損害の明細
(1) 入院雑費 六、三〇〇円
一日七〇〇円の割合による九日分
(2) 通院交通費 一万八、七二〇円
一日二四〇円の割合による通院実日数七八日間分
(3) 休業損害 三〇七万〇、三六六円
(イ) 本件事故の翌日である昭和五六年七月一二日から症状固定の日である同五七年五月三一日までの三二四日間、昭和五五年の賃金センサス第一巻第一表、男子労働者、小学・新中卒、五〇ないし五四歳の年間給与額三四五万八、九〇〇円を基礎として、次の算式により算出した金額
3,458,900円×324日/365日=3,070,366円
(ロ) なお原告宮地は、本件事故当時無双運送に自動車運転手として稼働して、一か月に平均一三万円の収入であつたが、同原告は、昭和五二年九月から同五六年二月までの間、安永工業株式会社に製罐工として勤務し、一か月約一八万円の収入の外に夏期と冬期の賞与として年間二〇万円の支給を受けて居り、その後同年四月から、次の就職先がきまるまでの間の臨時に無双運送に就労していたため、給与が低かつたものである。
したがつて右のような合理的理由がある場合には、事故直前の三か月以前の給与水準を基礎として、平均給与額を算定すべきである。
(4) 入通院による慰謝料 七三万八、〇〇〇円
入院一か月の場合の慰謝料二〇万円を基準とし、次の算式により、入院期間九日間の慰謝料を算出した五万八、〇〇〇円と、
20万円×9日/31日=58,000円
通院期間三一三日間(一〇、四か月間)のため、通院一〇か月の場合の慰謝料六八万円とを合計した金額
(5) 後遺障害による逸失利益 二四八万六、一一八円
次の各数値を基礎として、次の算式により算出した金額
後遺障害等級 一二級
労働能力喪失率 一四パーセント
症状固定時の年齢 五〇歳
継続期間 六年
ホフマン係数 五・一三四
給与 年額 三四五万八、九〇〇円
3,458,900円×0.14×5.134=2,486,118円
(6) 後遺障害による慰謝料 一六〇万円
(7) 以上の総損害額 七九一万九、五〇四円
(四) 賠償を受けるべき損害額 六五二万九、五〇四円
原告宮地は、損害保険から一三九万円の支払を受けたので、これを右の総損害額から控除すれば、被告から賠償を受けるべき損害額は六五二万九、五〇四円となる。
(五) 弁護士費用 七五万円
原告宮地は、昭和五七年六月二六日、本件訴訟代理人弁護士両名との間で、本件訴訟の着手金一〇万円、報酬金を判決によつて認められた金額の一〇パーセントとする旨の約定をし、着手金は即日支払つたが、右報酬金は六五万円となる。
(六) 結論
よつて原告宮地は被告に対し、前記(四)の賠償を受けるべき損害額と(五)の弁護士費用との合計七二七万九、五〇四円及びそのうち右弁護士費用を差し引いた内金六五二万九、五〇四円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五六年七月一二日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
4 原告宮中が被つた損害
(一) 治療経過
昭和五六年七月一三日から同月二一日までの九日間三愛病院に入院、
同年七月二三日から同年八月二九日までの三八日間高知整形外科病院に通院(但し、実治療日数は一〇日)、
同年九月二日から同五七年五月一八日までの二五九日間細木病院に通院(但し、実治療日数は三九日)、
以上のとおり治療を受け、同五七年五月一八日症状固定となつた。
(二) 後遺障害
自覚症状として、左頸部より左肩、左胸部に重く痛みがあり、肩凝り感が強く、頭頂部に痛みがある。
他覚症状として、頸椎後屈に痛みと軽度の運動制限があり、左回旋時に痛みがあり、頸項部の筋緊張が強く、頸椎のレントゲン検査でも、第五、第六頸椎の変形症が軽度に認められる状況にある。
したがつて他覚的にも神経系統の障害が証明されるから、自賠法施行令の後遺障害等級の一二級一二号に該当する。
(三) 損害の明細
(1) 入院雑費 六、三〇〇円
一日七〇〇円の割合による九日分
(2) 通院交通費 一万一、七六〇円
一日二四〇円の割合による通院実日数四九日分
(3) 入通院による慰謝料 六九万八、〇〇〇円
前記一の3の(三)の(4)の原告宮地の場合と同様の方法で算出した入院期間九日間の慰謝料五万八、〇〇〇円と、通院期間二九七日間(九・九か月間)のため、通院九か月の場合の慰謝料六四万円とを合計した金額
(4) 後遺障害による逸失利益 一一三万〇、七五三円
(イ) 次の各数値を基礎として、次の算式により算出した金額
後遺障害等級 一二級
労働能力喪失率 一四パーセント
症状固定時の年齢 四三歳
継続期間 六年
ホフマン係数 五・一三四
給与 昭和五五年の賃金センサス第一巻第一表、女子労働者、小学・新中卒、四〇ないし四四歳の年間給与額一五七万三、二〇〇円
1,573,200円×0.14×5.134=1,130,753円
(ロ) なお原告宮中は、本件事故当時高知市から生活保護を受けていたが、昭和五八年四月二日以降は受給していないうえ、右事故当時は原告宮地の内縁の妻として同原告と同居し、主婦としての役割を果していたところ、前記後遺障害により家事労働に支障が生じたから、一般の主婦と同様の損害が認められるべきである。
(5) 後遺障害による慰謝料 一六〇万円
(6) 以上の総損害額 三四四万六、八一三円
(四) 賠償を受けるべき損害額 三一七万〇、〇九三円
原告宮中は、損害保険から二七万六、七二〇円の支払を受けたので、これを右の総損害額から控除すれば、被告から賠償を受けるべき損害額は三一七万〇、〇九三円となる。
(五) 弁護士費用
原告宮中は、昭和五七年六月二六日、本件訴訟代理人弁護士両名との間で、本件訴訟の着手金を一〇万円、報酬金を判決によつて認められた金額の一〇パーセントとする旨の約定をし、着手金は即日支払つたが、右報酬金は三一万円となる
(六) 結論
よつて原告宮中は被告に対し、前記(四)の賠償を受けるべき損害額と(五)の弁護士費用との合計三五八万〇、〇九三円及びそのうち右弁護士費用を差し引いた内金三一七万〇、〇九三円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五六年七月一二日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の答弁
1 原告の請求原因一の1、2は認める。
2 同3中、(二)の後遺障害は否認し、その余は不知、
3 同(三)の(3)の休業損害については、原告宮地は本件事故当時無双運送で自動車運転手として稼働し、一か月平均一三万円の収入を得ていたから、右金額を基礎にして算定すべきである。
4 同(四)中、原告宮地が損害保険から受領した金額は一五〇万円である。
5 同4中、(二)の後遺障害は否認し、その余は不知。
6 同4の(三)の(4)の逸失利益については、原告宮中は、本件事故当時病弱のため就労不能として高知市から生活保護を受けていて、労働能力を相当欠いていたから、原告主張の平均賃金を基礎として算出するのは相当でない。
また原告宮中が生活保護によつて得た収入は、逸失利益から差し引くべきである。
7 なお原告両名の後遺障害については、高知調査事務所の調査の結果、昭和五八年一月二五日、原告宮地については非該当、原告宮中については後遺障害等級一四級一〇号に該当する旨認定された。
三 被告の抗弁
原告宮中については、昭和五八年三月二五日、右後遺障害に対する損害賠償をも含めて、一〇六万〇、四八〇円が同原告の代理人川添博に支払われたから、右金額は本件損害賠償額に充当されるべきである。
四 被告の抗弁に対する原告の答弁
被告の右抗弁は認める。
第三証拠 〔略〕
理由
一 本件事故の発生及び被告の責任
原告両名の請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがないから、被告は、自賠法三条本文により、原告両名が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任があることになる。
二 原告宮地が受けた傷害
1 治療経過
証人伊野部淳吉の証言により真正に成立したものと認められる甲一四、一五、一六号証の各一、二及び同一七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同一三号証の一、二並びに証人伊野部淳吉の証言及び原告宮地勝芳本人尋問の結果によれば、原告宮地は、請求原因3の(一)のとおりの治療経過を経たことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 後遺障害
前掲甲一七号証、証人伊野部淳吉の証言及び原告宮地勝芳本人尋問の結果によれば、原告宮地は、本件事故により治療を受け、昭和五七年五月三一日症状固定となつたが、なお自覚症状として、両肩の凝りと手のしびれ感、後頭部の頭重感と時々の頭痛があり、耳鳴りが著しい外、長時間自動車の運転をすると物が二重に見える二重視の症状があり、かつ他覚症状として、両肩の凝り、しびれ及び脱力があり、頸と肩の部分の局部に頑固な神経症状が残つていることが認められるから、以上の事実からすれば、原告宮地の後遺障害の程度は、自賠法施行令の後遺障害等級一二級一二号に該当するものと認定するのが相当であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
三 原告宮地が被つた損害
1 入院雑費
原告宮地が、本件事故により、昭和五六年七月一三日から同月二一日までの九日間三愛病院に入院して治療を受けたことは、前記二の1に認定したとおりであり、経験則上、右入院期間中は一日につき七〇〇円の割合による入院雑費を要したものと認めるのが相当であるから、原告宮地は、入院雑費として六、三〇〇円の損害を被つたものと認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 通院交通費
原告宮地が、昭和五六年七月二三日から同五七年五月三一日までの三一三日間高知整形外科病院に通院(但し、実治療日数は七八日)して治療を受けたことは、前記二の1に認定したとおりであり、また原告宮地勝芳本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告宮地が本件事故当時居住していた高知市前里一二四番地の住所から右病院に通院するには、一回につき往復二四〇円の割合による交通費を要したものと認められるから、原告宮地は通院交通費として一日二四〇円の割合による通院実日数七八日分の合計一万八、七二〇円の損害を被つたものと認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 休業損害
(一) 原告宮地が、本件事故当時無双運送に自動車運転手として稼働し、一か月に平均一三万円の収入を得ていたことは、当事者間に争いがない。
そして前認定の事実に、成立に争いのない乙一号証及び原告宮地勝芳本人尋問の結果によれば、原告宮地は、昭和五六年四月から無双運送で働いていたが、本件事故分翌日である昭和五六年七月一二日から症状固定の日である同五七年五月三一日までの三二四日間は、九日間の入院と、その後概ね四日に一回の割合による通院治療費等のため、稼働できなかつたものと認められるから、右入通院の期間中の休業損害は、次の算式によつて算定された一三八万四、七六七円と認定するのが相当であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
13万円×12月×324日/365日=138万4,767円
(二) なお原告宮地は、右入通院の期間中の休業損害については、賃金センサスによる昭和五五年の原告宮地と同年齢の男子労働者の年間平均給与額又は原告宮地が昭和五六年二月までの数年間安永工業株式会社で働いていた当時の一か月平均約一八万円余の収入を基礎として算定すべきである旨主張するけれども、原告宮地が、本件事故当時、近い将来において同原告が当時働いていた無双運送よりも一層収入のよい他の職場に就職する蓋然性があつたものと認めるに足りる証拠はないから、原告宮地の右主張は採用できない。
4 後遺障害による逸失利益
(一) 原告宮地が、本件事故により後遺障害を生じ、その程度が後遺障害等級一二級相当であること及び原告宮地が右事故当時一か月平均一三万円の収入を得ていたことは、前認定のとおりである。
そして経験則並びに証人伊野部淳吉の証言、原告宮地勝芳本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告宮地は、本件事故による症状固定時には年齢が五〇歳であり、右後遺障害の程度からして、労働能力喪失率は一四パーセントで、その継続期間は六年と認定するのが相当であり、そのホフマン係数は五・一三三六であるから、以上の各数値を基礎として、次の算式により原告宮地の後遺障害による逸失利益を算定すると、一一二万一、一七八円となる。
13万円×12月×0.14×5.1336=112万1,178円
(二) なお原告宮地は、右逸失利益の算定にあたつても、賃金センサスによる昭和五五年の原告宮地と同年齢の男子労働者の年間平均給与額を基礎として算定すべきである旨主張するが、前記3の休業損害の算定の場合と同様の理由により、原告宮地の右主張は採用できない。
5 慰謝料
原告宮地が、本件事故により九日間入院し、三一三日間通院(但し、実治療日数は七八日)して治療を受けたことは、前認定のとおりである。そして前認定のような本件事故の態様、原告宮地が受けた傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の内容と程度、その他諸般の事情を併せ考えると、原告宮地が本件事故によつて被つた精神的苦痛を慰謝するには、入通院による慰謝料として七〇万円、後遺障害による慰謝料として一六〇万円の合計二三〇万円が相当と認定され、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
6 賠償を受けるべき損害額
原告宮地は、本件事故により、前記1ないし5に認定したとおり合計四八三万〇、九六五円の損害を被つたものであるが、同原告が損害保険から一三九万円の支払を受けたことは、同原告の自認するところであるから、これを右の総損害額から控除すれば、被告から賠償を受けるべき損害額は三四四万〇、九六五円となることが明らかである。
7 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告宮地は、本件訴訟代理人弁護士両名に本件訴訟を委任し、右両名に対して一定の費用及び報酬を支払うことを約したことが認められる。
そして本件訴訟の経過、請求認容額、当裁判所に顕著な弁護士会報酬等基準規程等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害として原告宮地が被告に負担を求め得る弁護士費用相当分は、四〇万円と認定するのが相当である。
四 原告宮中が受けた傷害
1 治療経過
証人佐々木豊の証言により真正に成立したものと認められる甲一八、二一、二二号証の各一、二及び同二三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同一九、二〇号証の各一、二並びに証人伊野部淳吉、同佐々木豊の各証言及び原告宮中鶴子本人尋問の結果によれば、原告宮中は、請求原因4の(一)のとおりの治療経過(但し、細木病院における実治療日数は三七日)を経たことが認められ、前掲甲二三号証中右認定に反する部分は、前掲甲二一、二二号証の各一、二に照して採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 後遺障害
前掲甲二三号証、証人佐々木豊の証言及び原告宮中鶴子本人尋問の結果によれば、原告宮中は本件事故により治療を受け、昭和五七年五月一八日症状固定となつたが、なお自覚症状として、左頸部より左肩、左胸部に重く痛みがあり、肩凝り感が強く、頭頂部に痛みがあり、かつ他覚症状として、頸椎後屈に痛みと軽度の運動制限があり、かつ頸部の左回旋時に痛みがあり、頸項部の筋緊張が強い状況にあることが認められるから、以上の事実からすれば、原告宮中の後遺障害の程度は、自賠法施行令の後遺障害等級一二級一二号に該当するものと認定するのが相当であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
五 原告宮中が被つた損害
1 入院雑費
原告宮中が、本件事故により、昭和五六年七月一三日から同月二一日までの九日間三愛病院に入院して治療を受けたことは、前記四の1に認定したとおりであり、経験則上、右入院期間中は、一日につき七〇〇円の割合による入院雑費を要したものと認めるのが相当であるから、原告宮中は、入院雑費として六、三〇〇円の損害を被つたものと認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 通院交通費
原告宮中が、昭和五六年七月二三日から同年八月二九日までの三八日間高知整形外科病院に通院(但し、実治療日数は一〇日)し、更に同年九月二日から同五七年五月一八日までの二五九日間、細木病院に通院(但し、実治療日数は三七日)して治療を受けたことは前記四の1に認定したとおりであり、また弁論の全趣旨によれば、当時原告宮中が居住していた住所から右各病院に通院するには、一回につき往復二四〇円の割合による交通費を要したものと認められるから、原告宮中は、通院交通費として、一日二四〇円の割合による通院実日数四七日分の合計一万一、二八〇円の損害を被つたものと認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 後遺障害による逸失利益
(一) 原告宮中が、本件事故により後遺障害を生じ、その程度が後遺障害等級一二級相当であることは、前認定のとおりである。
そして原告宮地勝芳及び同宮中鶴子の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告宮中は、本件事故による症状固定時には年齢が四三歳であり、また右事故のころから原告宮地の内縁の妻として同原告と同居し、主婦としての役割を果すようになつたが、かねて精神障害のため高知市から生活保護を受けて居り、右症状固定時以後も昭和五八年三月ごろまでの間生活保護費の受給を継続し、かつその間精神障害のため病院に通院するなどして治療を受けていたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
したがつて以上の各事実からすれば、原告宮中は、本件事故による症状固定時から数年間は、精神障害のため相当程度労働能力が低下していたものと推認されるから、賃金センサスによる昭和五五年女子労働者の小学・新中卒の四〇ないし四四歳の年平均収入をも考慮して、原告宮中の本件事故による症状固定時における収入は、一か月七万円と認定するのが相当である。
そして経験則並びに証人佐々木豊の証言、原告宮中鶴子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告宮中は、その後遺障害の程度からして、労働能力喪失率は一四パーセントで、その継続期間は六年と認定するのが相当であり、そのホフマン係数は五・一三三六であるから、以上の各数値を基礎として、次の算式により原告宮中の後遺障害による逸失利益を算定すると、六〇万三、七一一円となる。
7万円×12月×0.14×5.1336=603,711円
(二) なお被告は、原告宮中が生活保護によつて得た収入を同原告の逸失利益から差し引くべきである旨主張するけれども、生活保護法による各種の扶助は、同法四条一項又は三項の要件がある場合に支給されるが、同法六三条の要件がある場合には、その受けた保護費に相当する金額の範囲内において返還義務を負う場合も予定されているから、生活扶助等による給付額を、交通事故に基づく逸失利益から控除するのは相当でないものと解されるので、被告の右主張は理由がない。
4 慰謝料
原告宮中が、本件事故により九日間入院し、二九七日間通院(但し、実治療日数は四七日)して治療を受けたことは、前認定のとおりである。そして前認定のような本件事故の態様、原告宮中が受けた傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の内容と程度、その他諸般の事情を併せ考えると、原告宮中が本件事故によつて被つた精神的苦痛を慰謝するには、入通院による慰謝料として六八万円、後遺障害による慰謝料として一六〇万円の合計二二八万円が相当と認定され、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
5 賠償を受けるべき損害額
原告宮中は、本件事故により、前記1ないし4に認定したとおり合計二九〇万一、二九一円の損害を被つたものであるが、同原告が損害保険から一〇六万〇、四八〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを右の総損害額から控除すれば、被告から賠償を受けるべき損害額は一八四万〇、八一一円となることが明らかである。
6 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告宮中は、本件訴訟代理人弁護士両名に本件訴訟を委任し、右両名に対して一定の費用及び報酬を支払うことを約したことが認められる。
そして本件訴訟の経過、請求認容額、当裁判所に顕著な弁護士会報酬等基準規程等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害として原告宮中が被告に負担を求め得る弁護士費用相当分は、二〇万円と認定するのが相当である。
六 結論
1 以上の理由により、原告宮地の本訴請求は、被告に対して、本件事故による前記三の6の損害金三四四万〇、九六五円と同三の7の弁護士費用四〇万円との合計三八四万〇、九六五円及びそのうち右弁護士費用相当分を除く三四四万〇、九六五円に対する本件事故による損害が発生した日の翌日である昭和五六年七月一二日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。
2 また原告宮中の本訴請求は、被告に対して、本件事故による前記五の5の損害金一八四万〇、八一一円と同五の6の弁護士費用二〇万円との合計二〇四万〇、八一一円及びそのうち右弁護士費用相当分を除く一八四万〇、八一一円に対する本件事故による損害が発生した日の翌日である昭和五六年七月一二日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある。
3 したがつて原告両名の本訴請求は、右の各限度において認容し、その余の各請求部分は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 富永辰夫)